梨の薬膳

季節の変わり目にすっかり足をとられてしまった。

おとついの夜からのどもとに妙な違和感があった。あくる日、目をさますとなんだがひどく気怠いし、のどがずくんと痛む。しまったと眉を顰めてもおそい。家を出るべき時間をすこし過ぎてようやく布団から這い出し、シャワーでからだを温め、出社はすっかりあきらめてしごとのしたくを始めた。こういうとき、どこでもできるしごとというのはほんとうによいものだとしみじみおもう。のどの痛みは徐々にひろがって首もと全体がふくれているようにおもえる。これはもう、リンパがだめだ。いらつくのどをさすりながらのろのろキーボードを叩く。効率なぞあったものではなかったが、外でやるよりはずいぶんマシだろう。

先日から飲みはじめたサジーを朝だけでなく夜にも煽った。直接的な効果のほどはわからないが、とかく病は気からというものだ。“回復に努めた”という実感が手に入ればそれでよい。その甲斐あったか、けさにはのどの痛みもひいて、いくらかのいらつきだけを残すばかりとなっていた。しかし、気怠い。気怠いのだが、きょうは家に籠るわけにはいかない。脳裏にスケジュールをたぐる。昼にミーティングがはいっている。

冷蔵庫をのぞく。のどから不調がきたときは、いつもりんごをのんでいる。ちょうど半分をすりおろし、はちみつとしょうがを入れたものをお湯で割って呑み込む。あまさとからさがのどに沁み、ぽかぽかとぬくさが胃の腑に沁みる。しかしきょうはりんごを切らしていた。かわりに梨がころんとある。おまえは代わりになるかしらんとすこし調べてみると、梨の薬膳なるものがひっかかった。

のどの不調に【梨の温か潤い薬膳デザート】レシピ - ミドリ薬品

梨に砂糖と生姜をくわえて蒸せばよいだけ、蒸し器がなければレンジでもかまわないらしい。家を出るべき時間までまだ四十分ほどある。すぐしたくにとりかかった。

梨はよく洗い、皮を剥かずにひとくち大に切ってすこしふかめの耐熱カップにいれる。朝食を済ませた胃に一個まるごとでは多すぎるから、四分の一をつかうにとどめた。きざみ生姜のかわりにチューブのしょうがをてきとうに落とし、はちみつはティースプーンにひとすくいよりすこし少ないぐらいを。あとはレシピにあるとおりラップをかけ、600W で 3 分加熱する。億劫のうででまな板を片付けていればあっという間に 3 分がすぎた。

あまくやさしい香りがする。カップの底には梨から染み出した汁が溜まりなめらかにゆれる。スプーンでひとくちすくう。あったかくやわらかい。はちみつのあまみとしょうがのからみが梨の水分に染み込み、ほどよく舌のうえに滴る。四分の一でもすこし多いかしらんとおもっていたはずが、つい、ぺろっと食べてしまった。

昼はあったかの雑炊にしよう、やさいのたっぷりはいっている。コンビニで米麹の甘酒を買って、夜はだしスープにしょうがをいれて。

きっと、あすにはよくなるだろう。

Author: 柾千樫