海と影

先の祝日、髪を染めてきた。半年ぶりほどかとおもっていたが、前回が昨年の七月というから、半年よりもほんのすこし一年に寄っている。

行きつけの美容院に在籍しておられる美容師のUさん。高校生の時分からずっと担当していただいている。人生の半分以上、おなじ手が髪をととのえてくださっているのだとおもうとふしぎなものだ。「いつものかんじで、いつもの色でおねがいします」——簡易なことばでコミュニケーションが足りる心やすさがありがたい。人見知りのさがにとって、美容院と医院いうものはいつなんどきも関門だ。はじめて訪れたときにばっさりベリーショートにしてからというもの、つい数年前までずっとショートを保っていた。ここしばらく気まぐれで伸ばしている。U さんは陽気なかたで、半年か、四ヶ月にいっぺんほどの間隔で訪れる私を見るたび、今回も伸びたねえ!とわくわくした様子で迎えてくださる。なんとなく、つられてわくわくする。ショートにしていたときは、それはもう意気揚々ざくざくと鋏をいれてくださって、その景気の良さを鏡のなかに眺めるのがひとつのたのしみだった。いまはととのえる程度にしてもらっているが、また気が変わってばっさりとやるとしたら、さぞやりがいがあるとはしゃいでくださるだろう。

どこまで伸ばそうかきめてはいない。どこまで伸びるだろうかとおもしろがっている。本棚のうえでお茶会をするくまのネージュとオリヴィエは、腰のあたりまでがんばるだろうか、せなかのあたりであきるかもしれませんよ、と紅茶のさざめきにわらっている。こひつじのティヨルがあくびをかみつつ、もうあきてたりして、などとむにゃむにゃいってねがえりをうつ。私は後ろ髪をてきとうにまとめながら、どうだろうねえとあくびしている。

Author: 柾千樫